夜の五つ刻《どき》

 二人は、すぐ蓮台寺村へ帰って夕食を認《したた》めた。下田の宿へ移るといって、航海の準備をした。寅二郎は、着替えの衣類二枚と、小折本孝経《こおりぼんこうきょう》、和蘭文典前後訳鍵《オランダぶんてんぜんごやくけん》二|冊《さつ》、唐詩選掌故《とうしせんしょうこ》二|冊《さつ》、抄録数冊《しょうろくすう...

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保土ヶ谷の宿

 考えてみると、保土ヶ谷の宿で給仕に出た女中が、頻《しき》りに手指を掻いていたのを思い出した。あの女中から伝染《うつ》されたのだと思ったが、どうすることもできなかった。彼は、大事を決行する前に、たとい些細《ささい》な病《やまい》にしろ、こうした病に罹《かか》ったのを悔んだ。彼は、黒船に乗るまでには、...

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足摺《あしず》りしながら叫んだ

「毛唐め! やりおる! やりおる! あのように皇国《みくに》の海を人もなげに走りおる!」 慷慨家《こうがいか》の金子は、翼なき身を口惜しむように、足摺《あしず》りしながら叫んだ。「なに、今にメリケンヘ渡ってあの術を奪ってやるのだ。夷人《いじん》の利器によって夷人を追い払うのだ」 寅二郎は、熱海...

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