ギヤマンの灯籠《とうろう》

「メリケン人! メリケン人!」重輔は、小舟の舷《ふなべり》に、足をかけながら、大声に叫んだ。 船上に怪しい叫び声が起り、人の気勢《けはい》がしたかと思うと、ギヤマンの灯籠《とうろう》が、舷側から吊し下ろされた。見上ぐると、船上から数人の夷人が、見下ろしている。寅二郎は矢立を取り出し、灯籠の光で懐紙...

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夜の五つ刻《どき》

 二人は、すぐ蓮台寺村へ帰って夕食を認《したた》めた。下田の宿へ移るといって、航海の準備をした。寅二郎は、着替えの衣類二枚と、小折本孝経《こおりぼんこうきょう》、和蘭文典前後訳鍵《オランダぶんてんぜんごやくけん》二|冊《さつ》、唐詩選掌故《とうしせんしょうこ》二|冊《さつ》、抄録数冊《しょうろくすう...

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保土ヶ谷の宿

 考えてみると、保土ヶ谷の宿で給仕に出た女中が、頻《しき》りに手指を掻いていたのを思い出した。あの女中から伝染《うつ》されたのだと思ったが、どうすることもできなかった。彼は、大事を決行する前に、たとい些細《ささい》な病《やまい》にしろ、こうした病に罹《かか》ったのを悔んだ。彼は、黒船に乗るまでには、...

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