著しい感動の色が浮んだ

 提督の顔にも、著しい感動の色が浮んだ。彼の心が、二人の日本青年の利益のために動いたことは確からしかった。彼は、やや青みがかっている顔を上げて、一座を見回した。「ほかに意見はありませんか。ウィリアムス君! ワトソン君?」 そのとき、ワトソンはふと、さっき日本の青年の一人がランプの光で字を認《したた》めているときに、その手指に無数に発生していた伝染性腫物のことを思い出した。「私は船医の立場から、ただ一言申しておきたい。彼の青年の一人は不幸にも Scabies impetiginosum に冒《おか》されている。それは、わが国において希有《けう》な皮膚病である。ことに艦内の衛生にとっては一つの脅威《メナス》である。私は、艦内の衛生に対する責任者として、一言だけいっておく。むろん私はこの青年に対して限りない同情を懐いているけれども」 ゲビスの正義人道を基本とした雄弁も、この実際問題の前には、たじたじとなった。 提督の顔色が再び動いた。彼は青年の哀願を拒絶するために感ずる心の寂しさを紛《まぎ》らす、いい口実を得た。かなり長い熟考の後に提督はいった。「ゲビス君、私はこの青年に対する同情において、決して貴君に負けはしない。が、私は疑わしき人道よりも、もっと考慮しなければならないものを持っている。その上、かの青年たちの志望よりも、艦内における衛生の重んずべきことについては、諸君が一致していてくれるだろうと思う。それではウィリアムス君! かの青年たちを宥《なだ》めて、陸上へ返して下さい。ゲビス君! 君はかの青年たちを送り返すために、ボートの用意を命じてくれたまえ」 そして、その命令は即時に実行された。 外科医のワトソンは、二人の日本青年が舷梯《げんてい》から降されるのを見た。二人は目に涙を堪《たた》えながら、合衆国人の仁義心に訴えたが、それが容れられないと知ると、穏やかなわずかな抵抗を試みた後、その不幸な運命に服従した。彼らのつつましい悪怯《わるび》れない態度を見たワトソンは、その夜船室の寝台で、終夜眠れなかった。

— posted by id at 04:01 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1583 sec.

http://gamewag.com/